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仙台高等裁判所 昭和24年(を)378号 判決

被告人

関安雄

主文

本件控訴はこれを棄却する。

理由

弁護人菊地養之輔の控訴趣意第一点について。

原審第一、第二回公判調書を通じ、裁判官が被告人もしくは弁護人に対し、反証の取調の請求その他の方法により検察官提出の証拠の証明力を爭うことが出来る旨を告げた記載が見当らないから、原審の裁判官はかかる趣意を告げなかつたものと推定されるのであつて、かようなことは刑事訴訟法第三百八條、刑事訴訟規則第二百四條に違背する違法な手続であるといわねばならぬこと、方に所論の通りである。しかし原審第一回公判調書を仔細に点検すれば、被告人は起訴事実を全部認め、弁護人は起訴事実に付き別に陳述することはないと述べたこと、被告人は検察官の取調請求にかかるすべての証拠に付き、証拠とすることに同意し且つ証拠として取調をすることに異議がなく、弁護人は、検察官の証拠調の請求について、格別取調を請求する証拠がないと述べたこと、また、弁護人は単に寬大な判決を受けたいとの弁論をし、被告人また同様の最終陳述をしたことが看取される。それ故本件においては、たとえ、裁判官から、証拠の証明力を爭い得る旨告げられたとしても、おそらく被告人としては、これを爭う意図がなかつたのではあるまいかと推認されるし、弁護人としては、特にかかる告知がなくても、検察官の論告の直前、または、少なくとも弁論に当つて裁判官に向い、裁判官がかかる告知をしなかつたことの不当を責め、更めて証拠の証明力を爭う処置をとりえたのにかかわらず、記録上この処置をとつた形跡もなく、加之、当審に提出された弁護人の控訴趣意書に徴しても竟に証拠の証明力を爭う具体的処置乃至準備あることを窺知することができないから、弁護人としてもこれを爭う意図がなかつたのではあるまいかと推認される。かかる場合には、証拠の証明力を爭いうる旨告げなかつた、訴訟手続の違背は、判決に影響を及ぼすこと明らかであるとはいいえないというべきである。従つてこの程度の違背はいまだもつて原判決を破棄するの理由に乏しい。

論旨は理由がない。

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